ドクターズ・コラム

2018.01.04 / 無痛分娩

無痛分娩について思うこと

院長の吉冨です。最近、良くも悪くも話題となっている無痛分娩について、私の考えや思っていることを書こうと思います。いろいろな意見がある中で、これもまた一意見として読んでいただけたら幸いです。

妊娠とお産について

私は妊娠とは一種の呪縛のようなものであると考えています。妊娠が発覚した時点で、どういう形であれ、出産をしないと妊娠は終われませんし、どんなに先延ばしにしたくても必ず10ヶ月を過ぎるころには出産を迎えることになります。しかも、出産には痛みを伴う、、、。妊娠とは本来、女性が経験することができる、喜ばしい権利ではあるのですが、やはり不安はつきものです。特に痛みは皆さんが最も恐れていることの一つではないでしょうか。そんな中、通常は自然分娩か帝王切開分娩かの選択肢しかなく、とりわけ、帝王切開分娩は何らかの医学的理由がなければ通常は行いません。そうなると選択肢はなく、恐怖と痛みに耐えなければ妊娠を終えることができなくなり、それではせっかくの幸せな気持ちが、苦痛に負けてしまうことがあります。

 

産みの苦しみという概念

日本では“産みの苦しみ”という言葉があります。痛みに耐えてお産をすることで赤ちゃんへの愛情が強くなると信じられています。本当にそうでしょうか?欧米ではお産の痛みを和らげることにより、産まれてくる赤ちゃんのことを考える余裕ができることで赤ちゃんへの愛情がより深まるとも考えられています。多くの場合は陣痛に耐え、何とか出産を終えることができ、赤ちゃんとの対面を喜び合うのですが、中には痛みと疲労のため、喜びを感じる余裕のない方もおられます。安全管理を行った上での硬膜外麻酔による無痛分娩は、痛みで取り乱すことなく、希望と喜びを肌で感じながら落ち着いて新しい家族を迎えることができる分娩方法であると我々は考えています

 

お産の安全性とは

当院では皆様のニーズに応えるべく、安全対策を徹底した無痛分娩を提供しております。痛みを取り除く効果が最も高く、赤ちゃんへの影響が少ない硬膜外麻酔による無痛分娩です。しかし、最近、硬膜外無痛分娩について偏った報道が相次ぎ、無痛分娩についての正しい知識、考え方、分娩の多様化に伴う平等な選択の自由が一方的に奪われている気がしています。そもそもお産とは安全なものではありません。日本ではあらゆる安全対策を行って、できるだけ安全にお産ができるように管理されていますが、それでも妊婦さんが亡くなってしまう割合は、年間約100万人の出産に対し、50人前後です。これは世界的に見てもトップレベルの死亡率の低さではありますが、まだまだ死亡率を下げる努力が必要です。そんな中、硬膜外無痛分娩は通常のお産に人の手を加えて痛みを取り除くため、一層の安全対策が必要です。当院では事故が起こってからの対応はもちろんのこと、事故が起こらないように予防に力を入れています。例えば局所麻酔薬の種類は局所麻酔中毒を起こしにくいものを使用したり、投与する局所麻酔薬の濃度を極限まで下げることで事故を起こりにくくしたり、院内マニュアルを作成して質と安全性を確保したりしています。

当院で採用している無痛分娩の手法は、自分で痛みに合わせて麻酔を調節できる最先端のものです。個々人の体に合わせた麻酔の量でカスタマイズしますので、「入れすぎた」「足りなかった」という声が非常に少ない施術です。

 

無痛分娩は誰が管理するのか

一般的に、硬膜外無痛分娩を行っている大学病院などは麻酔科医が麻酔を担当し、産婦人科医が分娩管理を行います。一方、当院のような一次医療施設の多くは産婦人科医が麻酔も分娩管理も行うか、麻酔科医が硬膜外カテーテルのみ挿入し、産婦人科医が分娩管理と麻酔管理を行います。どちらも良い面と悪い面があると思います。まず、麻酔科医が麻酔を担当し、産婦人科医が分娩管理を行うパターンですが、良い面としては麻酔を比較的安全に行うことができ、有事の際に専門的な対処ができ得ること、痛みを取り除くスキルが高いことが挙げられます。悪い面としては2つの診療科が共同して分娩の管理を行うため、それぞれの専門的な部分を理解しないまま、お互いにまかせっきりとなりやすく、また、双方の主張が食い違うことがあり、分娩管理がスムーズに進みにくいことが挙げられます。さらに、このような体制で無痛分娩が普及しにくい理由は麻酔科医の確保が困難であること、妊娠・出産を理解した上で麻酔管理ができる麻酔科医が少ないことにあります。次に産婦人科医が麻酔も分娩管理も行うパターンですが、良い面としては痛みの状態と分娩の進み具合を総合的に判断し、分娩をコントロールしやすいこと、外来診療から分娩に至るまでの患者の状態・背景を把握しやすいことが挙げられます。悪い面としては麻酔に関する知識や技術が乏しい場合がありうること、有事の際の対応が遅れる可能性がありうることが挙げられます。どちらのパターンが優れているのか、、、。正直私もわかりません。どちらも100%安全なわけではありませんし、お産を安全に進めることが第一ですが、痛みを取り除く必要もあります。

 

お産の安全を確保するのは産科医

私は周産期(産科)専門医でありますが麻酔科標榜医でもあります。しかも、産科麻酔という妊娠・出産に特化した麻酔管理の教育を受けてきました。全国に同じような医師はおそらく数名いるかいないかと思います。実際、無痛分娩や帝王切開、困難な分娩症例を数多く経験して思うことは、やはり分娩管理は産科医でないとできないということ、麻酔管理は安全に分娩管理ができる上で提供する必要があること、無痛分娩を提供する限りは麻酔を行う上での安全管理や対策を講じていること、が大事であると思います。

 

無痛分娩の今後

現在、医会や学会が全国の無痛分娩の実態を調査し、安全対策を今後どのように組み立てていくべきか模索中です。今後の無痛分娩の更なる安全の確保と、全国の皆さんに提供できる仕組み作りが進んでくれることを切に願っています。

 

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(当院で無痛分娩を希望される方は必ず受講して頂きます。また、院外の方でも受講頂けます)

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