出生前診断
出生前診断・クアトロテスト

出生前診断・クアトロテスト

Ⅰ.出生前診断の目的とは?

出生前診断の目的は
①可能なら胎内治療
②出産後のすみやかな治療・療育計画立案・治療・療育開始
です。障がいのある子どもを中絶する為に行うわけではありません。

出生前診断は妊婦に行われる標準的検査ではありません。当院医師より染色体異常に関する出生前診断をお勧めすることはございません。ご興味がある妊婦さんは自ら担当医師へご相談ください。

クアトロテスト

Q. 胎児に障がいがあることが心配です、出生前診断を受けたほうがいいですか?

A. その答えはその家族ごとに違います。

出生前診断を受けたことがきっかけで、胎児が重い障がいをもつことが判明したとします。
その場合、出生前診断を受けたほうが良かったのか?という答えはその家族ごとに違います。
もし出生前診断をうけてしまうと、胎児が重い障がいがあると判明した場合に、

イ)赤ちゃんが障がいがあっても苦難を乗り越えて共に歩んでいくのか
ロ)母体が精神的・肉体的・経済的にダメージを受けてしまい、
  赤ちゃんとともに苦難を乗り越えて共に歩んでいくことが難しいのか

このイ)ロ)の難しい選択を迫られます。

イ)の場合

イ)の場合は出生前診断を受けることで、出産前から赤ちゃんの予後改善のための様々な準備をすることができます。
また、イ)の場合は、どんな病気や障がいがあっても、赤ちゃんと人生を共に歩んでいくご夫婦の決意がありますので、分娩後でも予後改善のための療育計画立案は十分間に合うため、あえて出生前検査を受ける必要はない場合もあります。

ロ)の場合

ロ)の場合は、経済的なダメージにより母体の健康状態が悪化し、やむを得ず妊娠中絶となる場合もあると仄聞します。
このように検査を受けることで「命の選別」につながるという考え方もあり、出生前診断は社会的・倫理的に難しい問題を含んでいます。

そのほか、クアトロテストのような検査結果が確率で表される検査を受け、結果が「陽性」と説明されたことで、妊娠中ずっと不安な気持ちで過ごすことになったりするデメリットや、確定的な診断をするため羊水検査を受けた結果、子宮内胎児死亡・流産に至ることもあるという短所もあります。

Q. 出生前診断を受けて後悔しませんか?

A. 非確定的出生前診断テストを受ける場合以下の具体的な事例をよく理解されたうえで検査を希望してください。

同じ確率を示された妊婦さんがその人その人で結果への対応が異なる例

Aさんに100分の1の確率で陽性ですと説明した
➡ では99%はダウン症でないのですね、安心しました。羊水検査は受けません。

Bさんに100分の1の確率で陽性ですと説明した
➡ 40人クラスで3クラスに1名以上の確率という事ですね、とても確率が高いと感じます。
  すぐ羊水検査を受けたいです。

自分がどちらの妊婦さんのタイプなのか事前に考えておいてください。

40歳で非確定的出生前診断テストを行い確率1000分の1で「陰性」と言われたのにダウン症であった例

Cさんはダウン症の確率が1000分の1であり「陰性」だったので羊水検査は希望しなかった。
しかし出産後に1000分の1の確率でダウン症であったことがわかった。
Cさんは「非確定的出生前診断テストって受ける意味あるのですか?」と言われている。

非確定的出生前診断テスト陽性のため羊水検査したところ、正常の赤ちゃんが死産となった例

40歳で長期にわたり不妊治療してやっと妊娠できたDさんは非確定的出生前診断テストを受けたところ100分の1の確率でダウン症と言われ「陽性」だった。羊水検査を受けたが、結果は正常染色体でダウン症ではなかった。しかし羊水検査の合併症のため子宮内胎児死亡となった。Dさんは「もし非確定的出生前診断テストを受けなければ羊水検査を受けることもなかったし、その結果死産になることもなかった。結果論だが染色体は正常だったから、非確定的出生前診断テストを受けたことで正常な赤ちゃんを亡くしてしまったことになり後悔してもしきれない」と言っている。
※羊水検査による流産率は300分の1から600分の1と言われている。

非確定的出生前診断テストを受け「陽性」だったが羊水検査は受けなかった例

たまたま軽い気持ちで非確定的出生前診断テストを受けたところダウン症候群が70分の1の確率と言われ「陽性」と説明を受けた。どんな病気や障がいがあっても、赤ちゃんと人生を共に歩んでいく夫婦の決意があったので、胎児死亡の可能性がある羊水検査は受けなかった。ただ非確定的出生前診断テストが「陽性」と説明されたことで、妊娠中ずっと不安な気持ちで過ごすことになった。その後出産となったが正常の赤ちゃんでダウン症候群ではなかった。振り返ると赤ちゃんがダウン症候群であっても分娩後に対応すれば準備は間に合うと思うので、そもそも非確定的出生前診断テストを受ける必要はなかったと感じている。

Ⅱ.染色体異常に関する出生前診断について

はじめに

胎児異常は全出生の3~5%に先天異常があり、染色体異常はその4分の1(25%)しかありません。
先天異常があっても4分の3(75%)は染色体が正常であることをご理解ください。染色体異常の確率が低かったからと言って、先天異常のあるお子さんを分娩しないとは限りません。

NIPT検査やFTS検査(第1三半期検査)、コンバインド検査、クアトロテストは確定的な診断はできません。NIPT検査やFTS検査、コンバインド検査、クアトロテストは羊水検査を受けるべきかどうかの判断の手がかりを提供するものです。

羊水検査は妊娠16週ごろ行われる検査で確定診断できます。ただし0.3~0.5%は羊水検査に伴い流産すると言われ、胎児の命にかかわる、リスクが高い検査です。そのほか母体にも前期破水、子宮内感染、子宮出血、子宮内血種、子宮収縮誘発、切迫流産、切迫早産、などの合併症のリスクがあり、更には常位胎盤早期剥離や羊水塞栓症など母体の生命にかかわる合併症のリスクもまれにあり得ます。検査をされる場合はそれぞれの検査に長所と短所がありますのでどれが良いか事前によくお考え下さい。

クアトロテスト
クアトロテスト

1. NIPT検査

母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査(無侵襲的出生前遺伝学的検査)

母体血のなかにある赤ちゃんのDNA断片の塩基配列を読み取り染色体ごとに分類し標準地値と量的な比較をすることで染色体の変化を判定する検査です。単胎妊娠か双胎妊娠であり、分娩予定日が確定されていることが必要です。検査可能週数は妊娠10週から妊娠22週です。ダウン症(21番染色体異常)・エドワーズ症候群(18番染色体異常)・パトウ症候群(13番染色体異常)のみの非確定的な検査です。陽性・陰性・判定保留の3結果となります。
福岡市立こども病院・久留米大病院・国立九州医療センター・福岡大学病院遺伝医療室 をお勧めします。 

一般的なNIPT検査を受ける条件(下記のいずれかに当てはまること)

(※施設により異なることもあり実施施設にお問い合わせ下さい)

  • 分娩予定日の時点で35歳以上の高齢妊娠
  • 採卵時年齢34歳2か月以上の高齢妊娠
  • トリソミーの妊娠分娩歴がある    など
NIPTの長所短所

ダウン症候群に関する検査感度は99%と非常に感度が高いです。妊娠10週からと非常に早い妊娠時期に検査が可能です。陰性であればリスクを伴う羊水検査をしない選択肢が得られる可能性があります。
検査結果がくるまで10日間ほどです。
短所は20万円以上と検査費用が高額です。また検査結果は確定診断ではないことです。

どの施設でNIPT検査を受けるべきか

福岡市立こども病院・久留米大病院・国立九州医療センターをお勧めします。
日本医学会 臨床部会運営委員会「遺伝子・健康・社会」検討委員会の下に設置された「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」施設認定・登録部会に対して、本検査施行のための認定・登録を申請し、認可を受けた施設でNIPTを受けることをお勧めします。また日本産婦人科学会が平成25年3月9日付けで示した「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針」に沿って実施している産婦人科専門医と小児科専門医が常勤で勤務している施設でNIPT検査を受けることをお勧めします。

2. コンバインド検査

妊娠11週0日から13週6日の期間のみ行うことができる「超音波マーカー検査」と「血清マーカー検査」を組み合わせた検査です。「ソフトマーカーを用いた超音波検査」(FTS検査)とは胎児後頚部浮腫(NT)と鼻骨、静脈管血流、心臓の三尖弁逆流を観察します。「血清マーカー検査」はPAPP-AとfreeβhCGの2つの胎児胎盤ホルモンを測定し、「ソフトマーカーを用いた超音波検査」(FTS検査)の結果と組み合わせることでダウン症候群の検査感度は82~87%と言われています。
当院ではFTS検査やコンバインド検査を受ける場合は福岡市中央区の古賀文敏クリニックの胎児診断外来「初期胎児ドック」をお勧めしています。
コンバインド検査は妊娠13週までしか受け付けていませんので申込時期にご注意下さい。

コンバインド検査の長所短所

クアトロテストと異なり妊娠11週からと非常に早い妊娠時期に検査が可能です。ダウン症候群に関する検査感度は82~87%とクアトロテストよりも高い検査感度です。検査が陰性の場合は羊水検査を回避できるかもしれません。
短所は6万円以上と検査費用がやや高額です。また確定診断でないことです。

3. クアトロテスト

クアトロテストのダウン症の検査感度は81%と言われています。これはNIPT検査やコンバインド検査の検査感度と比較し低い数値です。
妊娠15週0日以降に行います。当院では検査が陽性の場合に羊水検査をおこなう目的で他の医療機関にご紹介する場合、時間的余裕が必要になる為、妊娠15週0日から16週6日までの期限で行っています。母体血清中の胎児胎盤成分であるAFP、uE3、hCG、inhibinAを採血し、ダウン症、18トリソミー、開放性神経管奇形(二分脊椎や無脳症など)の確率を算出します。確率ですので確定診断ではありません。陽性の場合は確定診断の為、羊水検査を受ける妊婦さんが多い現状です。クアトロテストが陽性であるからといって羊水検査を受けずに人工妊娠中絶を行うことはできません。
クアトロテストの利点としてはNIPTやコンバインド検査にはない開放性神経管奇形(二分脊椎や無脳症など)の確率を算出できることと、費用面で最も安価な事です。検査結果が来るまで10日間くらいです。
検査は米国のバイオテクノロジー企業であるLabCorp社に依頼しています。血液検体を米国へ輸送する為事前予約が必須となります。採血時の体重測定が必要です。検査の特殊性にかんがみ当院で分娩される患者さんのみにクアトロテストを行っていますのでご了承下さい。この検査は特別な理由や強い希望がある場合にだけ行う検査です。検査を受ける前に検査の限界や意義をよく理解してから検査に臨むように強くお願いしております。

クアトロテストの長所短所

妊娠15週0日以降に行います。クアトロテストのダウン症の検査感度は81%と言われています。これはNIPT検査やコンバインド検査の検査感度と比較し低い数値です。他の検査と異なり開放性神経管奇形(二分脊椎や無脳症など)の確率も算出されるので、胎児2分脊椎の診断につながるかもしれません。検査が陰性の場合は羊水検査を回避できるかもしれません。検査費用は4万円程です。短所は確定診断でないことです。

4. 羊水検査

羊水検査は妊娠15~16週ごろ以降に行われる検査で確定診断ができます。ダウン症候群の検査感度はほぼ100%です。ダウン症(21番染色体異常)・エドワーズ症候群(18番染色体異常)・パトウ症候群(13番染色体異常)だけでなく様々な染色体異常が診断可能です。ただし羊水検査を行った0.3~0.5%は流産すると言われ、胎児の命にかかわるリスクが高い検査です。そのほか母体にも前期破水、子宮内感染、子宮出血、子宮内血種、子宮収縮誘発、切迫流産、切迫早産、などの合併症のリスクがあり、更には常位胎盤早期剥離や羊水塞栓症など母体の生命にかかわる合併症のリスクもまれにあり得ます。

当院では羊水検査は行っていませんのでご注意下さい。検査を行っている他院にご紹介しますが検査費用は16万円以上かかることがあるようですので検査を施行する施設に各自でお問い合わせ下さい。

出生前診断の為に行われる
各検査の特徴

検査施行時期 ダウン症の
検査感度
長所 短所 費用
(施設により変動あり)
クアトロ検査 妊娠15週~20週
当院では16週まで
81% 2分脊椎の
確率がわかる
確率であって
確定診断ではない
4万円くらい
コンバインド検査 妊娠11週~13週 82~87% 11週と初期から
検査可能
確率であって
確定診断ではない
6万円くらい
NIPT検査 妊娠10週~22週 99% 感度が高い 確率であって
確定診断ではない
20万円くらい
羊水検査 妊娠15週以降 ほぼ100% 確定診断できる 胎児死亡や母体の
合併症のリスクがある
10万円~20万円くらい
クアトロ検査

検査施行時期:妊娠15週~20週(当院では16週まで)
ダウン症の検査感度:81%
長所:2分脊椎の確率がわかる
短所:確率であって確定診断ではない
費用:4万円くらい

コンバインド検査

検査施行時期:妊娠11週~13週
ダウン症の検査感度:82~87%
長所:11週と初期から検査可能
短所:確率であって確定診断ではない
費用:6万円くらい

NIPT検査

検査施行時期:妊娠10週~22週
ダウン症の検査感度:99%
長所:感度が高い
短所:確率であって確定診断ではない
費用:20万円くらい

羊水検査

検査施行時期:妊娠15週以降
ダウン症の検査感度:ほぼ100%
長所:確定診断できる
短所:胎児死亡や母体の合併症のリスクがある
費用:10万円~20万円くらい

胎児超音波検査

「胎児超音波検査」

「お腹の赤ちゃんになにか異常はありませんか?」と問われる事は私たち産婦人科医にとって日常しばしば経験します。超音波検査は、妊婦健診での「通常超音波検査」と胎児の形態異常診断を目的にした「胎児超音波検査」の2種類があります。「胎児形態異常」を検出する目的は疾病罹患児の予後向上にあります。出生時に確認できる形態上の異常(胎児奇形)頻度は3~5%とされ、その原因は多岐にわたります。染色体異常は胎児疾患原因の約25%です。当院では検査を希望される妊婦さんに対して妊娠10週~13週ごろと妊娠18~20週ごろと妊娠28週~31週の3回、「胎児スクリーニング」と呼んで妊婦健診と同時に「胎児超音波検査」を行っています。当院の胎児スクリーニング方法としては2015年と2016年に公表された日本産科婦人科学会周産期委員会が提言した胎児超音波検査の推奨するチェック項目に基づいて検査を行っています。本法によるスクリーニングで陽性の場合は精密検査による胎児診断(確定診断)が可能な施設に紹介しています。

胎児超音波検査

最後に本法の限界についてご説明します。
検査時に胎児が観察に適した位置や向きにない場合は異常が発見できないことがあります。
本スクリーニング検査で発見されない可能性の高い疾患には、口唇裂や多指症などの疾患、大血管転位症や肺動脈狭窄が強くないファロー四徴症などの先天性心疾患、小さい髄膜瘤(脊髄髄膜瘤)のように異常部分が小さく描出困難な疾患などがあります。また胎児の胸水、腹水、卵巣嚢胞、消化管閉鎖など、妊娠30週以降に発症・顕在化してくる疾患は発見できないことがあります。「胎児超音波検査」は胎児に対して非侵襲的ですが、検査感度は36~56%とされ発見率は決して高くはありません。発見に至る可能性が少ない疾患も存在する事を妊婦さんやご家族に事前に理解して頂きたく存じます。

胎児超音波検査
デュアルSpO2スポットチェック

デュアルSpO2スポットチェック
~新生児の先天性心疾患の早期発見のために

生まれたての赤ちゃんが一見健康そうに見えるのに、出生後1週間後にショック状態になって総合病院の新生児科に救急搬送される事例があることをご存知ですか?
これは「動脈管性ショック」と言われている状態で、見た目はピンク色の赤ちゃんで健康そうなのに、胎児のときに使っていた「動脈管」という血管が生まれた後徐々に閉じていくことでショックが誘発される症状です。

このような「動脈管性ショック」となる重症の先天性心疾患があっても、出生直後の新生児の診察では心雑音や心不全症状が無いために、その診断は困難です。
もし心臓病による重症のショックが起こったら、おかあさんがたは大事な赤ちゃんの予期しない急変にひどく動揺されます。
でもこのような突然の赤ちゃんの病状が予知可能だとすればどうでしょうか?
多くのお母さんと赤ちゃんが救われます。

当院では大切なご家族を守るため、新生児の先天性心疾患の早期発見のためデュアルSpO2スポットチェックを行っています。使用機器には米国小児科学会のCCHDスクリーニングガイドラインと福岡市立こども病院のCCHDスクリーニングの手引きに基づいた設定をプログラムしています。米国では多くの州でこの検査が義務化されています。
出生前の胎児超音波スクリーニングでは見つからなかった、大血管転位症、大動脈縮窄症、大動脈離断症、新生児遷延性肺高血圧症、ファロー4徴症、総肺静脈還流異常などの先天性心疾患を新生児期に早期発見する為に非常に有益な検査です。
出生当日と第1生日、退院日に赤ちゃんにこの機器を接続する事により、「パス」「フェイル」「リチェック」の自動判定がなされます。当院では原則、全員の赤ちゃんに無料で検査をしております。

*すべての「動脈管性ショック」が予知できるわけではありません。
*心臓病や呼吸器疾患のすべてが予知できたり、診断できるわけではありません。
*上記説明に挙げた各心疾患が必ず診断できるわけではありません。

あまがせ産婦人科の新生児聴覚スクリーニング

あまがせ産婦人科の
新生児聴覚スクリーニング
~AABR法を採用して

当院では新生児の聴覚検査を全例の赤ちゃんに行っています。単に「音」が聞こえることと、「言葉」としてはっきりと聞こえることは違います。大きな音に反応しているからと、聴覚検査を受けなかった赤ちゃんが、小学生になるころに難聴が見つかって、ハンディキャップを負ったことに後悔されている例もあります。聴覚検査で難聴が発見できていれば、補聴器などの利用により、「言葉」の聞き取りができて、ハンディキャップを負わない成長が期待できます。すべての赤ちゃんがもれなく聴覚検査を受けることができるように、検査費用は多くの自治体が公費補助しています。福岡市民や筑紫地区の市民は自治体の公費補助が5千円を上限にあります。福岡市や筑紫地区の聴覚検査の公費補助は妊婦健診受診券に組み込まれています。もし検査費用の公費補助がない市にお住まいの場合には聴覚検査1回につき5000円の検査費用が発生します。

また、聴覚検査にはOAE法とAABR法の2つの検査方法がありますが、当院ではAABR法で検査しています。AABR法であれば「オーディトリー・ニューロパチー」、「聴神経難聴スペクトラム」などの聴神経や脳の問題で起こる難聴(後迷路性難聴)の発見が可能です。かつ検査感度もOAE法に比べ圧倒的に高く、このため厚生労働省ではAABR法による新生児聴覚スクリーニングを推奨しています。
しかしAABR法の欠点として、検査機械や検査の付属品のランニングコスト、人件費が高価であることが挙げられます。当院では高価ではありますが、当院でご出産になった赤ちゃんの全員に、今できる限りの最善の検査を提供したいという思いから、全例にAABR法を採用した聴覚検査を行っています。

但し、AABR法による聴覚検査も万能ではありません。サイトメガロウイルス感染による遅発性の聴覚障害など、検査に「パス」した後で難聴が見つかる例もあります。
「ご家庭でできる耳の聞こえと発達のチェックリスト」を使って、生後3か月後、6か月後、9か月後、12か月後、と絶え間なく耳の聞こえについて観察をお願いします。

もしも聴覚検査で「リファー」と呼ばれる耳鼻科での再検査が必要な結果になったとしても、耳鼻科での精密検査では正常であることも多いです。不安であったり、ご心配な場合は「福岡県乳幼児聴覚支援センター」と呼ばれる福岡県庁内の組織に連絡すると心配な妊婦さんに対してしっかりとフォローしてくれます。

家庭でできる耳のきこえと
言葉の発達のチェック表

※発達については個人差がありますので
参考程度にとどめてください。

(田中・進藤式)

0か月 頃

  • 突然の音にビクッとする
  • 突然の音にまぶたをぎゅっと閉じる
  • 眠っているときに突然大きな音がするとまぶたが開く

1か月 頃

  • 突然の音にビクッとして手足を伸ばす
  • 眠っていて突然の音に目を覚ますか、または泣き出す
  • 目が開いているときに急に大きな音がするとまぶたを閉じる
  • 泣いているとき、または動いているとき声をかけると泣きやむか動作を止める
  • 近くで声をかけると(またはガラガラを鳴らす)ゆっくり顔を向けることがある

2か月 頃

  • 眠っていて急に鋭い音がすると、ビクッと手足を動かしたりまばたきをする
  • 眠っていて子どもの騒ぐ声や、くしゃみ、時計の音、掃除機などの音に目を覚ます
  • 話かけると、アーとかウーとか声を出して喜ぶ(またはニコニコする)

3か月 頃

  • ラジオの音 、テレビの音 、コマーシャルなどに顔(または眼 )を向けることがある
  • 怒った声や優しい声、歌や音楽に不安げな表情をしたり喜んだり嫌がったりする

4か月 頃

  • 日常のいろいろな音(玩具・テレビ・楽器・戸の開閉)に関心を示す(振り向く)
  • 名を呼ぶとゆっくりではあるが顔を向ける
  • 人の声(特に聞き慣れた母の声)に振り向く
  • 不意の音や聞き慣れない音、珍しい音にははっきり顔を向ける

5か月 頃

  • 耳元に目覚まし時計を近づけると、コチコチという音に振り向く
  • 父母や人の声などよく聞き分ける
  • 突然の大きな音や声に、びっくりしてしがみついたり泣き出したりする

6か月 頃

  • 話しかけたり歌をうたってやるとじっと顔をみている
  • 声をかけると意図的にさっと振り向く
  • ラジオやテレビの音に敏感に振り向く

7か月 頃

  • 隣の部屋の物音や、外の動物の鳴き声などに振り向く
  • 話しかけたり歌をうたってやると、じっと口元を見つめ、時に声を出して応える
  • テレビのコマーシャルや番組のテーマ音楽の変わり目にパッと振り向く
  • 叱った声 (メッ、コラなど)や近くでなる突然の音に驚く(または泣き出す)

8か月 頃

  • 動物のなき声をまねるとキャッキャ言って喜ぶ
  • きげんよく声を出しているとき、まねてやると、またそれをまねて声を出す
  • ダメッ、コラッなどというと、手を引っ込めたり泣き出したりする
  • 耳元に小さな声(時 計のコチコチ音)などを近づけると振り向く

9か月 頃

  • 外のいろいろな音(車の音、雨の音、飛行機の音など)に関心を示す(音のほうにはってゆく、または見まわす)
  • 「オイデ」「バイバイ」などの人のことば(身振りを入れずにことばだけで命じて)に応じて行動する
  • となりの部屋で物音をたてたり、遠くから名を呼ぶとはってくる
  • 音楽や、歌をうたってやると、手足を動かして喜ぶ
  • ちょっとした物音や、ちょっとでも変わった音がするとハッと向く

10か月 頃

  • 「ママ」、「マンマ」または「ネンネ」など、人のことばをまねていう
  • 気づかれぬようにして、そっと近づいて、ささやき声で名前を呼ぶと振り向く

11か月 頃

  • 音楽のリズムに合わせて身体を動かす
  • 「・・・チョウダイ」というと、そのものを手渡す
  • 「・・・ドコ?」と聞くと、そちらを見る

12~15か月 頃

  • となりの部屋で物音かがすると、不思議がって、耳を傾けたり、あるいは合図して教える
  • 簡単なことばによるいいつけや、要求に応じて行動する
  • 目、耳、口、その他の身体部位をたずねると、指をさす

日本耳鼻咽喉科学会 新生児聴覚検査スクリーニングマニュアルより転載

拡大新生児マススクリーニング検査

拡大新生児マススクリーニング検査

いままでは「新生児マススクリーニング検査」が公費負担で行われていました。これは「新生児に対する先天代謝異常などの集団検診」と言い換えると理解しやすいかと思います。
この集団検診はアメリカのロバート・ガスリー博士が1960年ごろにフェニルケトン尿症の早期診断の検査法を開発したところから発展してきたので「ガスリー検査」という愛称でも呼ばれてきました。
現在ではガスリー法は使われなくなり、高性能な「タンデムマス検査」を中心とする先天代謝等検査(タンデムマス検査+内分泌検査+糖質代謝検査)が行われています。公費補助による検査で20個の疾患を調べています。
この集団検診の普及で様々な赤ちゃんの病気の早期発見と早期治療が可能となり、赤ちゃんの障がいを防ぐことが出来るようになりました。
検査法ですが赤ちゃんの生後4~6日目に足から採血し、採取血をろ紙に浸透させ乾燥させる簡単なものです。そのろ紙を大規模スクリーニングセンターに配送し結果は2週間ほどで判明します。

2023年度からはいよいよ「拡大新生児マススクリーニング検査」が始まります。従来の検査に加え重症複合免疫不全症(SCID)と脊髄性筋萎縮症(SMA)とライソゾーム病が検査できるようになったのです。しかも従来の「新生児マススクリーニング検査」で使うろ紙をそのまま拡大検査にも使えるので、赤ちゃんの追加採血による負担は変わりません。
この「拡大検査」では重症複合免疫不全症(スキッド)が検査できることが画期的です。
スキッドの赤ちゃんにロタワクチンやBCGワクチンを接種すると命にかかわります。

ロタワクチンは生後2か月ごろ、BCGは生後5か月から接種します。どちらのワクチンも例外なく、すべての赤ちゃんが接種しています。
しかし事前に赤ちゃんがスキッドであるかどうかわかっていないと、もし知らないで接種してしまうと、命にかかわるのです。
スキッドの頻度はアメリカや台湾で6万人に一人、イギリスで5万人に一人と言われています。
まれな病気なのですが、もし病気を持っていたらワクチンを打つことで、赤ちゃんの命が危険にさらされるのです。
「拡大新生児マススクリーニング検査」は最新鋭の遺伝子検査であるため高価です。
公費負担のある「新生児マススクリーニング検査」とは違い、「拡大新生児マススクリーニング検査」の場合はスキッド含め7項目の希少疾患をまとめて検査し、赤ちゃん1名につき1万1千円の検査費用がかかります。1.1万円というと家族で豪華な外食ができるお値段だと思いますので経済的にご負担を感じることと思います。「拡大新生児マススクリーニング検査」は県によっては公費補助付きの拡大検査が実施されていますが、福岡県では公費負担は実現しておらず保護者の希望によるオプション検査となり1万円以上の検査費用が発生するのです。
ただ、赤ちゃんにとっては一生の問題ですし、原則、新生児期、つまり生まれて1か月以内の時期でしか検査ができない検査なのです。検査時期として推奨されるのは入院中の生後4日目前後です。あとでやっぱり受けたいと言っても受けることができません。以上のご説明を頭において赤ちゃんの「拡大新生児マススクリーニング検査」を受けるかどうか決めて欲しいです。2020 年12 月 には「重症免疫不全症に対する新生児スクリーニング実施体制の整備およびその普及に関する要望書」を日本小児科学会、日本マススクリーニング学会、日本免疫不全・自己炎症学会連名で厚生労働大臣へ提出しました。当院でも「拡大新生児マススクリーニング検査」まで検査を受けることを推奨しています。

あまがせ産婦人科
5つの特徴