ドクターズ・コラム

2018.05.30 / 新生児の検査

「新生児聴覚スクリーニング検査」についてご存知ですか?

先天性難聴の頻度は1000人に1~2人とされています。両耳に難聴のあるお子さんでは早く発見して補聴器を使用したり、早く「聞く力」や「話す力」をつける練習ができると、それだけお話しする能力やコミュニケーション能力を高くすることができます。
新生児聴覚スクリーニング検査は赤ちゃんが受けることができる「聞こえ」の簡易検査であり、痛みはなく安全で、赤ちゃんが寝ている間に10分間ほどで終了します。専門の施設で更に詳しい検査を受けた方が良いかどうかを判断する検査ですので安心して受けて頂きたいです。

厚生労働省は平成19年1月に最初の通達を出して以来、平成28年3月、平成28年9月、平成29年12月と通算4度にわたる異例の回数で新生児聴覚スクリーニング検査の普及を求める通達を出しています。また、出生した新生児の全員が検査を受けることを求めています。

日本産婦人科医会や日本耳鼻咽喉科学会でも全新生児に対する、この検査の普及を推進しています。

しかし平成28年度の福岡県内の調査では、生まれた新生児の全例にスクリーニング検査を行っている施設は、全分娩取扱施設のうち56.8%の施設しかありませんでした。しかもほとんどの施設で、検査費用は保護者の個人負担です。赤ちゃんの保護者に聴覚検査の費用を強いるため、経済的理由から聴覚検査をうけない赤ちゃんがいます。この結果、全員の赤ちゃんが新生児聴覚スクリーニング検査をうけることができないことが生じており、社会問題になっています。

新生児聴覚スクリーニング検査の検査方法には耳音響放射検査(OAE)と自動聴性脳幹反応検査(AABR)の2種類があります。

ただ、ここで問題があります。耳音響放射検査(OAE)では、検査の原理上、「聴神経難聴スペクトラム」など聴神経の異常による難聴が見逃され、検査結果が「パス」になってしまう欠点があります。

このため厚生労働省は自動聴性脳幹反応検査(AABR)を推奨しています。

当院でもスクリーニング方法として耳音響放射検査(OAE)ではなく自動聴性脳幹反応検査(AABR)を行っています。

自動聴性脳幹反応検査(AABR)は耳音響放射検査(OAE)に比較し検査機械や検査のランニングコストが高価であることが欠点ですが、検査感度や特異度が高く、欠点を補うだけのメリットがあると当院では考えています。

福岡県内には60の市町村があります。しかし平成30年5月現在、新生児聴覚スクリーニング検査の公的補助があるのは北九州市のみになります。福岡県全域で保護者の検査費用の負担を減らすためにはどうすればよいかと考え、福岡県医師会、耳鼻咽喉科医会、産婦人科医会、小児科医会、福岡県庁職員、更に有識者として九州大学医学部耳鼻咽喉科の中川尚志教授をお迎えし、平成28年11月に「福岡県新生児聴覚スクリーニング連絡協議会」を立ち上げました。平成30年2月には福岡県主導で聴覚特別支援学校や助産師会も含まれた「福岡県新生児聴覚検査体制整備検討会議」も開催されました。

私もこの連絡協議会の委員の一人として、検査の意義に関する啓発活動や、市町村による検査の公費補助を目指して活動しています。

本来、「新生児聴覚スクリーニング検査」の検査費用は国より地方交付税措置され各市町村に給付されています。ただ、実際に検査費用として補助するどうかは、各市町村の裁量に任されています。現在、長崎県、鹿児島県、宮崎県、大分県と九州各県の多数の市町村が公費補助を行うことになりましたが、福岡県では北九州市のみしか公費補助は行われていません。連絡協議会としては、検査費用の公的補助が得られるよう、福岡県内の各市町村に求めて参ります。

(平成30年5月27日 理事長 天ヶ瀬寛信)

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