ドクターズ・コラム

2022.01.31 /

改めて「新生児聴覚スクリーニング検査」について【家庭でできる耳のきこえと言葉の発達のチェック表】

新生児期におこなわれるスクリーニングは、先天性代謝異常等検査と聴覚検査があり、いずれも異常の早期発見を目的としています。先天性難聴の出現頻度は 1000 人に 12人(0.10%)とされており、他の先天性疾患に比べても頻度が高いのが特徴です。もっとも頻度の高い心室中隔欠損症(0.4%)、ダウン症候群(0.15%)、口唇口蓋裂(0.15%)多指・多趾症(0.15%)大血管転位(0.15%)心房中隔欠損症(0.12%)に次ぎ難聴は7番目に高頻度な疾患となります。

先天性疾患の中でも 高頻度な疾患の一つである難聴ですが、日本国内では新生児聴覚スクリーニングの実施はまだ充分ではありません。国内では、新生児聴覚スクリーニングで難聴が疑われ、全国の精密聴力検査施設を受診する赤ちゃんは、国内出生数の約0.4%います。このうち約0.1%に両耳難聴が発見されます。またほぼ同じ人数の赤ちゃんが片耳難聴と診断されます。すなわち1000人に4名がスクリーニング検査で精査が必要と判断され、結局半分の2名は難聴と診断されているのです。両耳難聴のお子さんでは、早く発見して補聴器を装用し、早く聞く力や話す力をつける練習(早期療育、教育)ができると、それだけお話する力やコミュニケーション能力を高くすることができます。新生児聴覚スクリーニング検査によって難聴児を生後1か月以内に早期発見し、生後6か月以内に早期療養を開始することにより、難聴児の生活の質が大幅に改善につながるのです。

このように出生後の介入で難聴児の予後の改善が期待できるのですが、日本産婦人科医会の調査では公的補助がある地域とない地域で検査受検率が異なることが分かっています。2016年の日本産婦人科医会調査で、12.4%の妊婦が検査を受けない選択をしています。これは家計を考えて検査の費用負担を避ける傾向があるからです。しかし長い目でお子様の将来を考えてください。厚生労働省は新生児聴覚検査は全ての新生児が受けるべき検査だと言っています。公費補助があれば100%の新生児に聴覚検査を受けていただくことが期待されます。

福岡県の現状を見ますと令和3年4月末時点で60市町村中15市町村に検査の公費補助が行われています。具体的には北九州市・久留米市・福岡市・浮羽市・鞍手町・朝倉市・小竹町・筑前町・東峰村・添田町・糸田町・川崎町・広川町・八女市・嘉麻市で、現在福岡県内25%の自治体で公費補助が行われています。検査の公費補助の拡大が待たれます。

検査方法の選択にも問題があります。2016年(平成28年)の厚生労働省の通知では自動ABR法の使用が推奨されています。「新生児聴覚スクリーニング検査での使用機器について 」と厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長通知 (平成28329日)がありました。通知内容は「聴神経難聴スペクトラム(Auditory neuropathy spectrum disorders (ANSD)では、内耳機能は正常又は正常に近いため、耳音響放射検査(OAE)ではパス(反応あり)となるものの、聴神経機能は異常であるため自動聴性脳幹反応検査(AABR)ではリファー(要再検)となる。このため、初回検査及び確認検査は自動ABR法で実施することが望ましい」との内容です。しかし約30%の施設でOAEによる検査が行われ、推奨されている自動ABRは使用されていません(2016年の日本産婦人科医会調査)この理由は検査機器と検査費用が、OAEAABRに比べて安価であり妊婦さんの経済的負担を考えるとOAE法が導入しやすいためだと思われます。このような現況からも、新生児全例に対するAABR法による聴覚検査の公費補助実現が待たれます。

妊婦さんは皆様是非新生児聴覚スクリーニング検査を漏れなく受けていただき、結果が「パス」でない場合は、早期療育(乳児の補聴器着用など)のためにも福岡県乳幼児聴覚支援センターに相談しつつお子様にとって最も良い道を選択して頂きたいと思います。補聴器などによりお子様の言葉の覚えの遅れも抑止できると思います。

 また新生児の難聴の原因の30%以上をサイトメガロウイルス感染が占めると言われています。生後3週間以内の新生児尿サイトメガロウイルス核酸検査を行うことが望ましいです。聴覚検査で精査が必要になった場合は入院中にぜひ新生児尿検査を受けましょう。

最後に新生児聴覚スクリーニング検査で「パス」しても、その後遅発性難聴が見つかることがあります。お子さんにはお母さんの声が聞 こえていますか? 当院HP新生児検査の欄【家庭でできる耳のきこえと言葉の発達のチェック表】を掲載しています。生後0か月から15か月までは、必ずこの表を用いてお子様の聞こえのチェックを行ってください。

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