ドクターズ・コラム

2022.02.07 /

HTLV-1キャリアについての新しい考え方 母乳育児はできますか?今後の生活で注意することは?

HTLV-1キャリアとは:

HTLV-1ウイルスは、古くから人類と共存してきたもので、主にヒトの白血球(リンパ球)に感染するウイルスの一つです。 Human T-cell Leukemia Virus type I:ヒト T 細胞白血病 ウイルス -I 型の略称です。日本では九州を含む西日本に感染者が多いことが分かっています。HTLV-1 はレトロウイルスと言う種類のウイルスで、細胞に感染するとその中の遺伝子に入り込み、細胞とともに生き続けます。感染によって作られる抗体を検査することでウイルスの存在を知ることができます。HTLV-1 抗体陽性と判定さ れた場合、HTLV-1 に感染していることを示しており、そのような人をキャリアと言います。

 HTLV-1キャリアと母乳保育:

HTLV-1は成人T細胞性白血病の原因となるウイルスです。このウイルスは主に母乳を介して赤ちゃんに母児感染するウイルスです。このため母乳は飲ませず、ミルクのみ飲ませる人工栄養が勧められています。(ただし母乳を飲ませること以外でもお子さんに感染することはあります)

以前は生後3か月以内まで母乳を飲ませたり、母乳を凍結処置してウイルスを壊したうえで、冷凍した母乳を解凍し飲ませることもありましたが、研究が進んだ結果、2020年現在では完全人工栄養が最もお勧めされています。

生後3か月以内の短期授乳による母乳哺育や凍結母乳哺育が絶対できないわけではないのですが、これらの方法はまだ十分なデータがなく、確立された方法ではないので、現時点で積極的な推奨はされていません。

 HTLV-1抗体検査とは:

HTLV-1は成人T細胞性白血病の原因となるウイルスです。全国的に妊婦健診の採血に組み込まれていて、必ず行われる血液検査です。血液内科でなく産婦人科で白血病関係の検査を行う理由は、母乳を介して赤ちゃんに母児感染するウイルスだからです。

もしスクリーニング検査で陽性が出れば、LIA法(ラインブロット法)、更にラインブロット法が判定保留の場合は核酸検出法(PCR法)を行っています。スクリーニング検査は偽陽性がとても多いので、もし精密検査が必要と言われても不安にならないでください。

もし精密検査で陽性になった場合:

HTLV-1に感染した人のほとんどは、ウイルスによる病気を発症することなく一生を過ごしますが、ごく一部の人は(年間感染者1000人に1人の割合)は、感染してから40年以上経過した後に、成人T細胞白血病(ATL)という病気になることがあります。このため、当院では福岡大学病院の血液内科にある【HTLV-1キャリア外来(予約制)】を受診し今後の生活について指導を受けていただくことをお勧めしています。血液内科に受診する前に当院産婦人科医師からもご不安やご質問にお答えできますので、遠慮なく質問してください。

子どもが感染しているか、検査を受けるのは何歳ごろがいいのでしょうか:

3歳以降が望ましいと考えられています。乳児期前半には、母親からの移行抗体があるために感染の有無に関係なく抗体は陽性になります。この時期に行った検査で陽性であっても、子どもが感染しているとは言えません。また、赤ちゃんに感染してからウイルスに対する抗体がきちんとつくられるまでには2年以上かかります。検査の時期は3歳以降に行うのが望ましいです。しかし子どもがHTLV-1のことを十分に理解できる年齢になってから、子どもの自由意思で調べることもできます。もし陽性であった場合、感染を知ったことで心理的な負担をかかえることになるかもしれません。このことを十分理解した上で、検査を希望される場合は、かかりつけの小児科医や保健所にご相談下さい。

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